タイの大手扇風機メーカー「ハタリ(Hatari)」は、原材料費高騰にもかかわらず、製品価格を据え置くことで、世界的な危機を乗り越える戦略を推進しています。中東情勢によるサプライチェーンの混乱やエネルギー価格の上昇が続く中、タイ国民の生活を守るための企業の努力が「プラチャーチャート・ビジネス(Prachachat Business)」の取材で明らかになりました。
この記事の要約
- タイの扇風機大手ハタリは、中東情勢によるプラスチック原材料費やエネルギー・輸送コストの高騰に対し、価格据え置きで対応。
- コスト増を消費者に転嫁せず、生産プロセスの最適化、リサイクル推進、ベストセラーモデルへの集中で吸収。
- 古い扇風機を下取りし、リサイクルする環境配慮型キャンペーン「Fan It Forward」を展開し、持続可能な事業成長を目指す。
原材料価格の高騰とサプライチェーンの課題
2026年夏のタイは例年以上に酷暑が予想され、扇風機は需要の急増が見込まれる「黄金の機会」となるはずでした。しかし、中東情勢の悪化が、タイ国内の製造業、特にプラスチック部品を多用する扇風機メーカーに大きな課題を突きつけています。ハタリ社のタットサラック・パーニットトラクン研究開発担当副部長は、プラスチック原材料価格が2026年3月中旬から平均25〜30%上昇し、一部のプラスチックでは60%も高騰していると説明します。この価格上昇は今後も続く傾向にあるとのことです。
供給面では、プラスチック原材料の不足はまだ生じていないものの、複数ルートからの調達や、供給を確保するための競争入札が激化しており、調達コストと労力が増大しています。
消費者への負担転嫁を回避するハタリの戦略
ハタリの基本方針は、いかなる状況でも消費者への負担転嫁を避けることです。タットサラック氏は、原材料調達から生産プロセス、さらにはマーケティングに至るまで、あらゆる段階で詳細なコスト削減策を講じていると強調しました。これには、部品の金型変更や、取扱説明書を入れるプラスチック袋の見直しまで含まれており、徹底したコスト管理を目指しています。
原材料の調達においては、高騰する価格競争に過度に巻き込まれないよう慎重に交渉を進めています。現在、同社は約2〜3か月分のプラスチック原材料の在庫を確保しており、当面の供給は安定している見込みです。
生産効率化と環境配慮への取り組み
状況が長期化する場合に備え、ハタリは生産体制と工場でのエネルギー使用の最適化、そして状況に合わせたマーケティングキャンペーンの開発を進めています。生産面では、売れ筋の「ヒーローモデル」と呼ばれる機種に生産を集中し、需要の少ないモデルの生産を一時停止または削減。さらに、販売数の多いカラーに絞ることで、金型交換の頻度を減らし、交換時に発生するプラスチック廃棄を削減しています。
工場設備のアップグレードも進行中です。プラスチック射出成形機は、以前の油圧式から電力式への切り替えが進められ、全体の約50%が電動化されています。これはエネルギー価格高騰の影響を軽減する前向きな変化となりました。また、工場屋根全体にソーラーパネルを設置し、電力購入量の削減にも貢献しています。
環境に配慮した取り組みとして、リサイクルプラスチックの活用をさらに強化しています。工場内で発生するプラスチック廃棄物は100%再利用され、製品の品質や安全性に影響を与えない範囲で、扇風機の底面カバーなど、一部の部品には平均10〜15%のリサイクルプラスチックが配合されています。研究開発チームは、可能な限り少ないプラスチックで製品を設計することにも注力しています。
タットサラック氏は、わずか1〜2グラムのプラスチック削減も重要だとし、パッケージングの見直しも進めています。例えば、以前はネジと取扱説明書を別々の袋に入れていたものを、現在は一つの袋にまとめることでプラスチックの使用量削減を図っています。
環境に優しい「Fan It Forward」キャンペーン
マーケティング面では、古い扇風機を下取りに出し、新しい扇風機を割引価格で購入できる「Fan It Forward」キャンペーンを展開しています。「タイの皆さんに古い扇風機を新しいFanに交換してもらおう」というキャッチーなスローガンを掲げ、ブランドを問わず、古い扇風機を下取りに出した消費者に、ハタリのウェブサイトで使える200バーツ(約1,000円)の割引券を提供しています。交換は、メガバンナー、ブロック28、セントラルワールド、セントラル・イーストビル、セントラル・ラートプラーオ、セントラル・ウェストビル、セントラル・シーラチャの7ヶ所で受け付けています。
下取りされた古い扇風機は、同社によって完全にリサイクルされます。これにより、一般的な方法で扇風機を廃棄する際に発生する二酸化炭素排出量を1台あたり約4〜5キログラム削減できます。このプロジェクトは2025年末から試験的に開始されており、2027年までに4,000台の扇風機を回収し、20トンの二酸化炭素排出量削減を目指しています。ハタリは、このプロジェクトをバンコクだけでなく、2026年末までに主要な地方都市にも拡大する計画です。
Thai-Picks View
タイの製造業は、プラスチックなどの原材料調達においてグローバルサプライチェーンに大きく依存しており、中東情勢のような地政学的リスクが原材料費や輸送費に直接的な影響を及ぼしやすい構造にあります。特に脱プラスチックの潮流やサプライチェーン見直しの動きが広がる中、タイ企業は国内でのリサイクル促進や生産効率化といった、より持続可能なビジネスモデルへの移行を迫られています。ハタリの取り組みは、こうした構造的な課題に対する先進的な対応と言えるでしょう。
このような企業の努力は、バンコクをはじめとする都市部の在住日本人にとっても朗報です。扇風機はタイの生活に不可欠な家電であり、その価格が据え置かれることは、物価上昇が続く中での生活費の安定に貢献します。また、「Fan It Forward」のようなリサイクルキャンペーンは、家電の廃棄に伴う環境負荷の低減にもつながり、持続可能な生活への意識を高める良い機会となるでしょう。長期的な物価安定のためには、企業のこのような工夫が重要であり、消費者は賢い選択でこれらを支持することが求められます。